湯葉日記

日記です

彼氏が私を口説いた店3選

ここ一年で印象的だったデートを振り返ろうとしたら飲み食いしたもののことばかり書きたくなってしまい、図らずも「酒呑みカップルにおすすめの店3選」的記事になってしまった。せっかくなのでそのままの(ニュアンスの)タイトルで公開します。

 

【赤羽】丸健水産

赤羽で昼から飲もうという話になり、ポカリスエットを2本抱えてバスに乗った。

待たせていた友人は駅近のバルでアヒージョかなにかをつまみに飲んでいて、会うなり「よーし馬鹿みたいに飲むぞ」と言った。私も飲むぞと言って、何店か回って実際に馬鹿みたいに飲み食いした。

 

途中入った居酒屋でレモンの乗ったからあげが出てきたとき、友人がちらりとこちらを見るなり「レモンが、ありますね」と言った。

カルテットだ、と笑いそうになったが、こちらもベロベロに酔っていたのでなにも答えずレモンをむしりとり、ダーッっとあらゆるからあげに絞った。

怒られるかと思った。が、友人は「あ~!」と笑っていた。

 

この何日か前の夜、カルテットの収録に出くわした。

仕事帰り、表参道で通行止めになっている道があって、聞けばカルテットの撮影だという(あとから振り返ると、6話のクドカン大森靖子ちゃんのシーンだった、たぶん)。

友人とトラックで囲まれた道の向こうをちらちら見ながら、早足で交差点を渡った。渡りながら、「すごいね」と話した。自分たちが夢中で毎日夜遅くまで感想を話し合ってるドラマの撮影に、目の前で会うとは思わなかった。

 

最後におでんを食べて帰ろう、と並んだのが「丸健水産」だった。

人気の立ち呑みおでん屋で、赤羽で飲むなら絶対に行きたいと思っていたところだ。酔いで冷えた体をさすりながら店の壁に目をやると「泥酔した人はお断り」という張り紙がしてあって、一瞬ヒッっと思った。

「私泥酔ではないよね」と確認すると、友人は「泥酔だよ。いますぐこの列から出ろ」と言った(出なかった)。

 

立ったまま大根をかじり、もち巾着をハフハフ言いながら食べる。

山芋のアレルギーがあるので、練り物は念のためと思って手を付けないでいたら、友人が「ほら、おもちと大根食べな」と自分のを私にくれた。

友人はスタミナ揚げやらつみれやら、練り物だらけになった自分のお皿を嬉しそうに見ていた。いいやつだな、と思った。

 

カップ酒を50cc残しておでんのだしで割ってもらう、というだし割り(アル中の発想だ)がここの名物で、50円払ってだしを入れてもらった。

「飲みものが好きなんだよな」としみじみとした顔で友人が言うので、そんなくくり方あるかよと思った。だし割りは、飲みすぎて舌が馬鹿になったんじゃないかと疑うくらいおいしくて、「今年いちばん幸せだわ」と口に出してしまった。実際、幸せだった。

 

後日、友人が赤羽育ちの職場の先輩にこの日の話をしたところ、「ド素人のコースだな」と一笑されたらしい。

 

 

【渋谷】GOOD MEALS SHOP

「きみと結婚したいと思ってるんだよね」と言われて言葉が出てこなかった。

静かなお店じゃなかったらたぶん爆笑していたが、客はほぼ私たちしかおらず、いい感じの音楽が低いボリュームで流れていたので、絶句するしかなかった。

 

そもそも付き合っていなかった。「ほぼ付き合ってる状態」とかでなく、完璧に付き合っていなかった。そう言うと、友人は「きみはたぶんこれからも誰かと付き合うし、もしかしたら僕もそうなったりするのかもしれないけど、ずっと結婚したいと思ってる」みたいなことを言った。

友人がマッチングアプリを入れていて、たまにマッチングした人と会っているのも聞いていた。でももうほんとつまんない、LINEしても実際にごはん食べに行ってもつまんないよ失礼だけど、と何度も言っていたので、なんだかんだ言って誰かしらと付き合うんだろうなとなんとなく思っていた。

 

クラフトジンを何杯か飲んだ。京都のドライジンの「季の美」がおいしくていい気分だった。友人はお酒にめっぽう強いが、珍しく彼も酔っていた。

カウンター席からは向かいのビルのベランダが見えた。友人と並んで窓の外を眺めていると、仕事の休憩で一服しにきた人が外に出てきて、ぼんやりと屋上のほうを見ながら煙草を吸っていたりした。その何人かとたまに目が合った。

 

帰り道、渋谷駅は工事をしていて騒々しかった。

ホームへの階段を下りていく友人を見送ろうとしたら、彼がくるっとこちらを向いてなにか言った。ズダダダダダダダという工事の音に消されて聞こえなかったので「なに!」と叫ぶと、「次会ったら手つないでいい!?」と叫び返された。中学生かよと笑った。

(※ぐるなび見つからなかったのですが、行ったのは渋谷店です)

 

【恵比寿】おじんじょ

夏、「おいしいレモンサワーが飲みたい」と口癖のように言っていたら、彼が店を見つけてくれた。人気店のようで、着く頃にはもう店の中はいっぱいだった。

こちらでお願いします、とテラス席に通される。テラス席、というか外の席で、椅子が地面と店の入り口の傾斜に跨っているのでガタガタした。入り口の暖簾に顔を撫でられながらもずく酢を食べた。扇風機の風が心地よかった。

 

店員が手早く運んでくる料理で狭いテーブルはすぐにいっぱいになった。ポテサラをひと口食べるなり、彼が「うわあ」と言う。「えっなにおいしい。ポテサラおいしい」。たしかにおいしかった。レモンサワーも何種類もあって、当然のようにおいしかった。

通りを眺めながらレモンサワーを飲んでいると、店員同士が呼びかけ合う声がたまに聞こえた。「ビップさんポテサラです」「ビップさん煮込みです」と言っている気がしたので気になっていたが、彼が「ここVIPさんって呼ばれてない?」と言うので確信した。

 

VIPか、と思って改めてテーブルをよく見ると、テーブルだと思っていたそれは小ぶりな冷蔵庫だった。冷蔵庫か、私たちVIP席なのに冷蔵庫の上で飲んでるのかと思った。翌日この店で撮った写真を見返したら全部笑っていた。

晩酌屋おじんじょ
〒150-0021 東京都渋谷区恵比寿西2-2-10 西牧ビル1F
4,000円(平均)

 

 

番外編

入籍する日にちを決めて、その日の夜はちょっといいとこでごはんを食べようという話になった。

「いいからその日は全部任せとけ」と大口を叩き、店を探した。サプライズで花束を贈ろうと思って、花屋さんも探し、レストランの人とも結構念入りに打ち合わせした。

 

決めていた日の前々日、私が高熱を出した。インフルエンザの検査が陰性だったときは安心して泣きそうになったが、もう何をどうやっても2日間で治すぞ、という気でいた。実際になんとか1日で熱は下がり、体調も徐々に回復してきた。

 

が、今度は前日、彼が高熱を出した。私の風邪をうつしたのかと思ったが、どうやらノロウイルスのようだった。翌日は朝から動くつもりだったので、予定の一部をキャンセルした。

 

当日になって、夜はお互いになんとか動ける状態だった。それぞれに水を1本ずつ持ち、ルルのど飴を舐めながら向かった。住宅地の中の一軒家レストランを選んでしまったので、恐ろしいほど遠かった。駅の階段で息を切らしながら「おなかすいてる?」と聞くと、「まったくすいてない」と言う。私もすいていなかった。

 

レストランは料理も店構えも本当にすばらしかったが、向かい合って座った彼の目がしだいに死んでゆくのが見てとれ、ああこれはとっとと婚姻届出して早く帰ろう、と思った。

デザートで花束を出してもらった。抱えきれないくらいの花束がいい、という私のリクエストのせいで、派手で、大きなやつだった。彼は「えええ」と言った。

写真を撮ってもらった。お互いに顔色も悪く、この日のためにと思って買ったPerfumeの衣装みたいなスカートは、アングル的に1ミリも写っていなかった。

 

花束と残りのワインを引きずるようにして市役所へ向かい、速やかに届けを出し、タクシーで帰った。

 

きょうの朝、起こされてベッドから顔を出すと、「ちょっとそこで待っててね、そこにいてね」と夫が言う。

部屋の外からなにやらガサガサ聞こえるのでまさかと思っていると、大量のバラの花束を持って入ってきた。「増えちゃったよ」と爆笑した。

きょう届くよう予約してくれていたのだと聞いて、じゃあきのうマジかよって思ったでしょと言うと、「マジかよって思った」。

 

大量の花束を抱えて夫に写真を撮ってもらった。バラに埋もれて横になっていると、棺桶の中みたいだと思った。

「家中の穴の空いた容器は使い果たした、もう花器がない」と母親に電話すると、「バケツとかゴミ箱洗って包装紙巻いて活けなさい」と言うのでその通りにした。

いま、家じゅうが冗談みたいに花だらけになっている。