湯葉日記

日記です

ガリガリ君が絶対に当たってしまっていた期のこと

10代のときものすごくくじ運がよくて、ガリガリ君を買うたびに当たりが出ちゃってた時期があった。実家のすぐそばにセブンがあって、そのセブンは私が高3のときにできたのだけど、オープン初日、地元のひとたちの行列に並んで辛いチキンとグミかなんかとガリガリ君を買ったら家に帰るよりも先にぜんぶ食べたくなってしまい、セブンの駐車場の横の塀に座って食べはじめた。そこでガリガリ君の当たりを初めて引いたのだけれど、そのガリガリ君こそが始まりのガリガリ君なのだった。


当たり棒はすぐにはアイスと引き換えず、しばらくティッシュにくるんでスカートのポケットに入れていた。なんでその場で引き換えなかったのかは思い出せないけど、たぶんオープン直後でてんてこ舞いのセブンの店員さんに無料でアイスをくださいとは言い出しづらかったんじゃないかと思っている。

 


地元に友だちがほとんどいなくて、セブンに寄るのはいつもひとりだった。駅からけっこう遠いこともあってかオープンから数週後にはもうレジ前の行列もすっかり解消されていて、もともとそこに5年くらいあったみたいな顔でセブンは営業していた。


おそるおそる店員さんに「ガリガリ君が当たったので引き換えていただけますか」と聞くと、あーと店員さんは言った。そしてそのままむき出しのでかい冷凍庫から魚をすくうみたいにガリガリ君をひとつ取り出し、手渡しでそれをくれた。家に帰って母親に「ガリガリ君が当たったから食べてもいいよ」と得意げに言ったのだけどバブル世代の母親はアイスは基本的にハーゲンダッツしか食べない人間で、そのガリガリ君は冷凍庫のなかに2週間くらい放置されていた。しびれを切らした私がそれを開けて食べるとまた当たりだった。ウワッ、と思った。

 

 


子どものころからくじ運はよくて、商店街の福引きのいい賞なんかも頻繁に引き当てていたし、家族もそれには慣れていた。けれどさすがにガリガリ君2回は尋常でないと思い、母親に「また当たったんだけど!」と興奮気味に当たり棒を見せると、母親は「あんたいつかその運使い果たしてガリガリ君の製造元で……製造元どこ? 埼玉? フーンじゃあ埼玉で死ぬんじゃないの」と縁起でもないことを言った。そういうことを言われるとすぐに怖くなる私は、これを引き換えるのはもうやめよう、やめて新しいガリガリ君を買おうと思った。


夏、部活帰りの日、高校のそばのデイリーヤマザキガリガリ君を買った。東京タワーを遠くに見ながらガリガリ君をかじっていくと、途中で「一」の字が見えてウワッ、と思った。もうひと口かじると「一本当り」の「本」の字が見え、まぎれもなかった。

 

 


その晩、ミクシィで知り合った友だちに3回連続で当たりが出た話をすると、「釣り乙」と返信がきた。釣りじゃないと熱弁しても友だちは半信半疑で、じゃあオーキャンのときにいっしょにガリガリ君買お、と言った。私たちは私大のオープンキャンパスにいっしょに行く約束をしていた。


オープンキャンパスの帰り、後楽園遊園地をちょっと覗いて、ラクーアのなかのサーティーワンでアイスを食べた。「やばガリガリ君食べなきゃじゃん」「アッ」とふたりで気づき、「私はもうアイスはお腹いっぱいだからシホだけ買って食べて」と友だちは言った。いいけどべつに、と言いながらコンビニを探した。


「いいけど、たぶんまた当たっちゃう気がするんだけど怖くない?」「え?」「ここで当たっちゃったらなんか……大丈夫かな」


そう言い始めたら私だけじゃなく友だちまで怖くなってしまって、その日はコンビニに寄らず、プリクラを撮って解散した。

 

 


大学にあがる前の春、またもやミクシィで知り合った別の友だちが、地方から東京に遊びにきていた。私たちは浅草やら渋谷やらに行ってへとへとになるまで遊んだ。ちょうど震災の年で、私たちの代の卒業パーティーやらなんやらはぜんぶなくなってしまったから、その腹いせみたいに楽しいことをぜんぶやった。


友だちが乗る長距離バスの駅に向かうまでのあいだ、電車のなかで恋バナを聞いた。「好きな人東京に住んでるんだよ」「えーじゃあ今回会えたじゃん!」「でも付き合ってないし、会うために来たみたいで重くない?」「えー」とかなんとか言いながら、私は急にアッ、と思った。


駅近くのコンビニで、バスのなかで飲むお茶を友だちが買っているとき、私はべつのレジでガリガリ君をふたつ買った。先に会計を終えた友だちが近づいてきて、「わーガリガリ君だ、2個食べるの?」と聞いてくるから「ううん1個あげる、ねえこれでもし当たりが出たら好きな人に連絡して」とすかさず言った。


友だちは店員さんにびっくりされるくらいの声でギャーッ無理だよ! と言い、なぜか大笑いしながら私たちはコンビニを出た。ありがとうねと言いながら袋を開ける友だちを見て、「私かはるちゃんどっちかが当たったらメールするルールだから」と言った。自分の分のガリガリ君をかじりながら、「なんかじつは当たるような気がしたんだよね」と言う準備はもうできていた。生まれて初めて、詐欺師ってこんな気持ちなのかもしれないと思ってどきどきした。


けれどそのガリガリ君は当たらなかった。どれだけかじっていっても「一」も「本」も「当」も見えなくて、ガリガリ君ガリガリ部分がなくなって棒を裏返してもやっぱりハズレだった。そんな、と思った。友だちの分だけは、と期待したけれど、それもやっぱりハズレだった。友だちは「わーつらいよ〜」と笑いながらバスに乗って帰って行った。

 

 


それからはガリガリ君を買わなくなった。大学2年のとき、アルバイトしていた塾の先生といっしょに近所のセブンに入って、ほんとうに久しぶりに一度だけガリガリ君を買ったらそれは当たりだったのだけど、フーン、当たるんだ、ここで、と思った。いっしょにいた先生のために「当たりましたよ!」と形だけ喜んで、当たり棒を引き換えて駐車場でもう1本を食べた。食べながら、ずっとはるちゃんの恋のゆくえのことを考えて、はるちゃんごめん、と思った。