湯葉日記

日記です

2019-01-01から1年間の記事一覧

うどん会

28日からひとり暮らしみたいな生活をしている。父はまだ入院しているのでちょくちょくお見舞いに行くのだけど、手術のせいで声帯に傷がついたらしくあんまり声が出ないのでずっとささやき声で会話している。 父は喉をかすれさせながらも病院の悪口を延々言っ…

食道がない

朝、手術室のある階に着くと、父が病室から出てくるところだった。のろのろと看護師さんのうしろを歩いていた父は私に気づくと「お、おう」と言った。どうやら手術着姿をひとに見られることに照れているのらしかった。 角を曲がるとき、鳥をつかまえるみたい…

笑顔チャンピオンだった日

リクルートが派遣スタッフ向けにAIを使った「笑顔研修」を始めたというニュースを見て、某テーマパークでアルバイトしていたときのことを思い出した。AIからじゃないけれど、私も笑顔研修を受けたことがある。 特定されてしまう可能性があるのでボンヤリした…

ふり返らないタイプのひと

このごろご飯が最後まで食べられない。なにを食べていても半分くらいで眠気がしてきて残してしまう。食欲がないというよりもものを噛んで飲み込む気力がない。 気力を司る部位をアルコールで麻痺させればどうにかなるんじゃないかとも思っていたのだけど、ど…

魔女について私が知っていること

覚えている限り人生最初の記憶はフィリピンパブのオーナーにブチ切れている母の姿で、バケツを持った彼女がそのなかの水をスーツ姿のオーナーに勢いよく浴びせかける様子を、私は2階の窓から見下ろしていた。まだ元気だった祖母が窓から母に向かってなにごと…

これより海中

8月の最終週になるとコンビニに花火が売っていないなんて知らなかった。すべての棚をなんど確かめても、そのニューデイズにはUNO以外の一切の玩具がないのだった。 店の外のガラスに背を預けてぼんやりと立っていると、人波の向こうに友だちが見えた。こちら…

だめな季節

むかしから7月頭に向いてなくて、この時期がくると鬱っぽくなってしまう。見る夢のほとんどが悪夢だし、そのくせいちど寝ると10時間は起きない。 雨の音、というか雨があたる街の音を聞きながら眠っている。私の家の目の前は大通りで、朝方になると運送業者…

鳩と視線

強くなろうなんて人生で思ったことがない。けど、毎日は勝手に私のことを少しずつ強くしているみたいで、このごろは初めてのひとの前で文字を書いても手が震えたりしなくなった。 友だちもそうみたいだった。大学1年のとき、同じバンドのボーカルだった彼女…

1-1-1

1-1-1なんて住所は馬鹿みたいで忘れようがなかった。魔法のカードみたいな装飾が全面にあしらわれた真っ黒の玄関扉を見たとき、やっぱりここだという気持ちが確信に変わった。 扉をふたつ隔てた向こうでなにか喋っている母が見える。父はその隣で吹き抜けに…

もうどこかわからない駐輪場

真夏だけに着る黒いワンピースは熱を吸ってぎらぎらと光っていた。 足の裏が痛い。天ぷら、ステーキハウス、蟹料理の看板を立て続けに見送って、私たちはそれでも歩き続けていた。 梅田での仕事までの空き時間だった。 二日酔いの体を阪急電車のシートに預け…

催眠術がとける日

自分は陽気だ陽気だと言い聞かせていたら最近、ほんとうに陽気みたいな感じになりつつある。 去年の夏に会ったのが最後の人と久しぶりに会うことになったとき、あの夏の自分がすごい笑う人だったのかそうじゃなかったのかがいまいち思い出せなくて、レバーを…

生活のためのメモその1

Evernoteでつけていた生活のためのメモがだいたい半年分溜まった。 生活のためのメモというのは、日々暮らすなかで「こうしたほうが生活がちょっとよくなる」と思ったことを覚えておいて、iPhoneでちまちま打っていたメモのことだ。 ずっと溜めていたら増え…

知らない人とパフェを食べた日

赤の他人とロイヤルホストでパフェを食べたことがある。 ログインすることがめっきり減ったミクシィを久しぶりに開いたその日、受信箱に知らない人からメッセージが届いていた。 突然ごめんなさい、驚かないでくださいという短い前置きのあと、メッセージは…