湯葉日記

日記です

2017-01-01から1年間の記事一覧

詩とバスマット

私がかつて想像した25歳の私はひとりだった。 結婚も特定の相手との交際もしておらず、友達は少なく、都内に独り暮らししていて、時どき演劇や食事のために外出する。 そういうことになる予定だった。 高1のときにミクシィを通じて舞台のチケットを譲ってく…

真夜中に浴衣を洗う

亡くなった祖母の部屋に入るのは久しぶりだった。物置と化した和室には仏壇とふたつの大きな箪笥、古い姿見などが並んでいて真夏でもやけにうすら寒く、昔からそこは夜ひとりで入るにはすこし怖い部屋だった。 箪笥の引き出しを1段ずつ開けながら「もしかし…

のどぐろとプール

夜行バスを下りると朝だった。にやにやしながら「ここはもしかして金沢なのではないか」と言うと、同行者も「オッもしかして金沢なのではないか」と乗ってくれたので、幾度もそれを繰り返す。飽きるまでやろうと思っていたが、彼が「まだテンションがそこま…

旅行記その0

夜行バスの中でこれを書いている。旅行に、と言われていくつか候補を出し合っていたら、そういえば私は7年くらいにわたって金沢に行きたかったのだと思い出した。なので金沢、と言った。 高校のころ、ロクにしなかった受験勉強の合間にも日記だけは律儀につ…

残るのは言葉だけだ

このところ何もかもがだめだった。部屋の外に出るのが億劫でたまらなくて、自分宛ての公共料金のハガキののりを剥がすのすら怖かった。 気分を強制的に変えようと湘南乃風を聴いてみたけれど、「マジで最高 心解放」という歌詞でさらにもうだめになってしま…

ラッキーカラー屋さん

教祖様だったんです僕、とトガワくんは言った。え、きみが? と聞くと「僕以外にも10人くらい。本物は1人なんですけど」とにこにこ笑う。 地下鉄を待つあいだ、トガワくんはこれまでの職歴について淀みなく語ってくれた。中卒だという彼は、16からの何年かを…

森を歩く

バスがお城みたいなラブホテルの横を通り過ぎて、東京を出たという実感がようやく湧いた。20分前にマックで買ったホットアップルパイはもう冷めていて、冷めたマックの食べ物ほどまずいものはないよなと考えていたら、隣に座る同行者も「冷めたホットアップ…

いつか忘れてしまっても

熱を出すたびに思い出すことがある。 それは1997年の夏の日で、私は幼稚園の先生の膝に頭を乗せて寝ている。カトリックの幼稚園だったから先生たちの半分くらいはシスターで、ひめゆり組のR先生もそうだった。 教室の窓からは園庭で走り回る子どもたちが見え…

自分の香りを見つけた話

ハタチのころ、よくつけていた香水があった。高校を卒業するときにデパートのカウンターで(背伸びをして)買ったそれはフリージアとスズランの香りで、ひと吹きして出かけると、会った友達みんなに「いい匂いがする」と言われた。嫌味のない、さわやかな香…